2004年9月

■◇■ 今月のもくじ =================☆=
 ■ 今月のつながりアクティビティ:「パンゲア@渋谷」  
 ■ 特集:パンゲア・メディア・アクティビティ
 ■ 研究室から:第2回『パンゲア・サロン』速報    
 ■ 今月のパンゲアフェロー「慶應義塾大学・梅垣佳代さん」
■ パンゲア日記(編集後記)
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■■ 今月のつながりアクティビティ ━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━ 「パンゲア@渋谷」 ■■━━━━━━━━━━━━━━★

 小・中学校をあわせ、8月で7回のアクティビティが終了。中学では夏休み中の生徒の人数が揃わず、ネット対戦「パンゲアTV・クイズなにこれ?」は10月へのずれ込みが決定したが、小学校ではいよいよ来月、本番を迎える。
 8月の活動は「こまパラ」の最終ブラッシュアップと、新たなクイズ「ラクがお」の作成にいそしんだ。
 こうした子ども達との楽しい時間の中でも、ファシリテーターが戸惑う出来事もある。8月は片方の小学校で2つのことが起こった。

 1つ目はクイズの出来をめぐってのチーム内のいさかいだ。
先月休んだAくんが、自分のチームのクイズそのものに不満を感じて、仲間のBくんを攻撃した。先月一緒に作った他の仲間は今日は来ておらず、1対1の口論は互いを傷つけあう言葉のぶつけ合いにまで発展してしまった。
「こんなクイズ、腐ってる!」「前回来なかったくせに!」
 それきり口をきかなくなってしまったふたりに、ファシリテーターは「このままじゃチームとしてクイズ作れないだろう? 正直な気持ちを言ってごらん」と投げかけた。
「腐ってるなんて言い方、刺さった」と、先月も来ていたB君が袖口で涙を拭きながらつぶやいたことから状況は一変した。A君は自分の言葉が相手を傷つけたことに気づいたようだった。素直に謝るA君、自分のつくった問題についてのA君の指摘を理解したB君。ふたりはその後、仲直りしてクイズを無事完成させることができた。
 リアルの場では傷つけた相手の反応はダイレクトに伝わる。こうした時、子どもは相手を傷つけたこと自体にも傷ついてしまう。気まずさを追い払う手助けをしてやることもファシリテーターの重要な役目だ。

 もうひとつは、毎月交換するメッセージボードがきっかけだった。
Cちゃんが相手校のDちゃんを名指しで「ムカツク」としきりに言う。会ってもいないのにと不思議に思ったファシリテーターの高橋さんがたずねると、先月、その子のメッセージを見たときにそう思ったという。高橋さんはCちゃんが1ヶ月前に感じた気持ちを忘れていなかった事実が気になった。 互いの親近感を高めるために用意したメッセージボードが大人の意図に反してこうした反応を引き出していることに驚かされたが、最初の2人のケンカと異なり、この場合の「ムカツク」はDちゃんには届いていない。Cちゃんは素直に思ったことを口に出しただけかもしれないが、届かなかったその感情は、1ヶ月間保たれてしまっていたことは事実だ。「自分の受け取ったものが、必ずしも書き手の思いどおりでないこともあるということを次の機会に話したいと思いました」と、高橋さんは終了後のミーティングで語ってくれた。

 個性はさまざま、等しく愛しいパンゲアの子どもたち。小さないさかいが大きないさかいに発展してしまうこともある。子どもたちの心の動きもしっかりと観察し、出会い・伝え合い・つながり会うフェーズを完了させるノウハウに加えてゆきたい。

■■ 特集 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━ パンゲア・メディア・アクティビティ(第一回) ■■━━━━★
 
 パンゲア・アクティビティは、「であう・つたえあう・つながりあう」という3つのフェーズを1年を通して展開する。今年の5月に渋谷区の子どもたちは出会い、6月から9月にかけて、自分たちの周囲の世界や関心のあることをクイズを通して伝え合うことを実践してきた。9月までの前半で行ってきたクイズ・アクティビティで、画像がどのように相手に理解されるのかを体験的に学んでいく。自分が意図した通りに必ずしも伝わるわけではない。
 そして、10月からはいよいよ「つながりあう」フェーズへ移行する。3月までの半年間を通して「パンゲア・メディア・アクティビティ」を実施し、離れた二つの学校の生徒たちは、どこまで「つながりあう」ことができるだろうか。
 「このメディア・アクティビティでは、二つの学校の子どもたちが協力しあいながら、ネット壁新聞を作成します。但し、作成過程の6ヶ月間、お互いの子どもたちが現実に出会うことはありません」と、渋谷アクティビティ実施リーダーの向井清二は語る。
 すべてインターネットを介して、互いに意見を交換しあい、まとめ、ネット壁新聞の素材を用意し、それらをホームページとして作成していくことになる。
つまり、ネットでコミュニケーションをしながら「共同創作」するアクティビティである。
「最終的には来年3月に、アイルランドのダブリンの子どもたちへのメッセージとして作成し終える予定です。まだ見ぬダブリンの子どもたちに向けて、どのようなメッセージをつくるのか、とても楽しみです」(向井)

●感覚的に使えるオーサリングツールの開発

 このメディア・アクティビティを実現していくために、いくつかのツールを開発している。その一つはすでにご紹介している絵文字ツール「パンゲア・コミュニケーター」だが、それ以外にも用意しなければならない。
 ネット壁新聞を作成するには、ホームページをつくらないといけないわけだが、通常のホームページ作成ソフトではなく、パンゲア専用のオーサリングソフトを作成する。
「子どもたちが感覚的にページを作成できるよう、できるだけ分かりやすい構造にしています。画面デザインのためにテンプレートをいくつか用意し、そこから自由に選んで文章や画像、音声などを貼り付けられるものです」とパンゲア副理事長・技術開発責任者の高崎俊之は語る。
 ここでは、子どもたちが日常生活のなかで楽しんでいるプリクラ帳や交換日記などのテイストも参考にしながら、テンプレートのデザインを作成しているという。
 「将来的にはいろいろな機能を拡張することになると思いますが、子どもたちがどのように記事の素材を集め、互いに協力しあって作成するのかがアクティビティの狙いですから、現状はシンプルな構造です。現実に使ってもらうなかで、いろいろな要望に応えたいと思っています」(高崎)
 ネット壁新聞をつくるなか、それぞれの子どもたちはどのように役割を分担するのだろうか。文章で表現する子ども、絵が上手な子ども、写真が得意な子どもなど、それぞれの個性がどう結びつき、一つの作品になっっていくのだろうか。
「クイズをつくるときに、子どもたちはチームメンバーの良い点を認め合いながら改善していました。こうした経験が活かされ、今度は違った学校同士で、どのように共同創作ができるのか。もしかすると、私たちが考えもしないメディアの使い方をしてくれるかもしれません」(向井)
 こうしたオーサリングツール以外に、ネット上でアイデアを出し合ったり、議事録代わりになる、投票にも使えるという「めもら」というツールを開発している。
 「付箋を使ったリアルタイム・コミュニケーション・ソフトウェアとでも言えるでしょうか。インターネット電話を用いて音声通信をしながら、アイデアを書いた付箋を遠隔の学校間でリアルタイムにシェアをします」(高崎)
 この「めもら」は、渋谷アクティビティを行うなか、付箋というのは連絡メモのような使い方だけでなく、アイデアを共有するツールとしてもたいへん効果があることから発想した。東京大学工学部の伊藤康太郎氏が研究開発ボランティアとして鋭意開発中で、現在は現場のネットワークを想定したテストを行っている。
 さて、子どもたちは「パンゲア・コミュニケーター」や「メディア・オーサー」、「めもら」などのメディアツールを用いて、どんな世界をつくっていくのだろうか。現実にはアクティビティのなかで初めて明らかになるのだが、そこに込めた狙いや期待については、次回の特集で述べていきたい。


■■ 研究室から ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 『第2回パンゲア・サロン』速報 ■■━━━━━━━━━━━━★

 「世界から見た日本の子どもと若者文化」をテーマに、第二回パンゲア・サロンを8月23日に開催した。プログラムの第一部は、副理事長の高崎による渋谷アクティビティの報告。ゲストの人たちが子どもたちの「つながりアクティビティ」の様子を興味深げに聞いていたのが印象的だった。
 第二部では、まず今回の進行役・朝川哲司(パンゲア理事)がアイスブレイクの一環として、異文化トレーニングの設問を行い、日米の考え方の相違についての話題を提供、場は次第に和んでいった。
 次に、コンゴ民主共和国のウィリー・トコ氏(東京大学大学院学際情報学府修士課程)からのプレゼンテーション。ブラック・アフリカ、コンゴについての紹介をいただいた後、日本のメディアによるアフリカ紹介はたいへん歪んでいるという指摘があった。
 アフリカといえば、大自然や動物の宝庫という印象の映像ばかりが流れるが、ライオンやキリン、象の群といった風景は今やアフリカ人でもほとんど見ることがないという。ウィリー氏によれば、日本でのアフリカ情報は欧米メディアのバイアスをかなり含んでるとのこと、今後パートナーシップを築くにはこうしたメディアのあり方も考え直す必要があるという。
 また、日本の文化についてもあまりにアメリカの影響を受けているのではないかとう指摘があった。「日本は島国だから」「戦争に負けたから」「日本人は英語が下手だから」という言い方をあまりに多く耳にするという。いずれもアメリカへの劣等感の裏返しのように見えるという。
 その一方で、日本語には身体表現を使った言葉が多いのが印象的だという。「耳に障る」「頭に来る」「腹黒い」「手が早い」などの言葉は、英語にコンプレックスを持つ以前に大切にしてよい文化ではないか。こうした美徳を世界に向かってアピールしてもよいのではないかという指摘だった。
 韓国の池賢淑(じ・ひょんすく)さんも、ウィリー氏と同じく東京大学大学院学際情報学府修士課程に在学中で、彼女はネット文化についての研究をしている。彼女からは、日本のアニメや漫画ついての指摘があった。たいへん素晴らしいコンテンツであるのにもかかわらず、こうした日本文化の強さをほとんどの若者が認識していないことを不思議に感じるという。
 言葉の面では、英語を日本語としてカタカナ表現で使っているのがたいへん多く、これは韓国でもみられるが日本のほうがずいぶん多いそうだ。また、若者言葉では「すみません、ごめん」という言葉がたいへん多い一方で、スキンシップが少ない。人間同士の関係が「よそよそしい」「親近感が持ちにくい」ように感じられるという。
 こうした二人のプレゼンテーションに対して、その後にパンゲア研究員を含めたパネルディスカッションなどを行った。私たちが何気なく使っている言葉は、特定の文化的な背景を前提にしている。文化背景が異なれば、同じ言葉や行動も違った意味を持ち始める。そこに思わぬ誤解が生じてしまうこともあるだろう。今後、パンゲア・アクティビティが世界へ広がっていくなか、こうした異文化コミュニケーションの課題は大きなテーマになっていくはず。
 「ここで得られたことを是非とも今後のアクティビティに活かして行きたい」
と、進行役を務めた朝川は締めくくった。今回、予定を30分もオーバーしながらも時間の足りなさを感じる、楽しくかつ有意義な研究会だった。


■■ 新コーナー:今月のパンゲアフェロー ━━━━━━━━━━━━
━━ 「慶応義塾大学SFC4年生・梅垣佳代さん」 ■■━━━━━━━━★

 はじめまして!インターン生としてお世話になっている慶應義塾大学総合政策学部4年の梅垣佳代です。
 もともとNPOに興味があり、大学の「非営利組織インターンシップ」という授業でインターンシップに参加することを決めました。15の候補先があったのですが、私の興味分野である「子ども」と「国際交流」というテーマに惹かれ、パンゲアを第一希望に選びました。
 メンバーの方々がみな個性豊かで職種や性格など全く異なっているにも関わらず、一つの目標に対してそれぞれ熱い思いをもち日々奮闘している姿に、ただただ感動の毎日です。
 NPOのあり方やそれに必要な知識やスキルを学ばせていただくべく、始めたインターンですが、唯一のとりえである体力・若さを生かして皆様に負けないぐらいの気持ちで、私もできる限りパンゲアの発展に貢献していきたいと考えています。何卒よろしくお願いします!

 梅垣さんには8月から事業推進ミーティングでの議事録作成、アクティビティのツール作成、準備、当日のファシリーテーターなど、オールマイティに活躍してもらっています。

 彼女のトレードマークはラクロスの用具バッグ。忙しい練習の合間をぬって乃木坂のオフィスや渋谷アクティビティの現場にせっせと通ってくれています。小さな体躯のどこにそんなパワーがあるのかと驚きですが、メンバー最年少の彼女は早くもみんなから“梅ちゃん”とのニックネームで親しまれ、9月一杯という短い期限がとても惜しいと感じる人材です。

 ほとんどがボランティアで、一見ツギハギのようなパンゲア活動メンバー達。
関わり方はさまざまだけれど、自分がこれまで属してきたコミュニティからヒョイと足を伸ばし、新たな“つながり”を求めてここに集まっています。それはきっと彼女も同じでしょう。彼女なりのやり方でパンゲアの“想い”を感じ取り、それを彼女の暮らすコミュニティにも伝えていってもらえたら嬉しいですね。


■■ パンゲア日記(編集後記) ■■━━━━━━━━━━━━━━━━★

●デスクから:山崎麻里子
 「パンゲアってなに?どんなことをやってるの?」という問いの次に来るのは、「どんな人がやってるの?」これは当然の反応。レターではこれまで理念や構想を色々と紹介してきたけれども、もう少しメンバーの顔つきが見えてもいいよね、ということで今月から事業推進メンバーを中心に、メッセージをもらうことにしました。そして最初の白羽の矢はインターンの梅ちゃんに。
 彼女の大学では企業と非営利組織双方にインターンを派遣する科目があるそうです。自分の学生時代には考えられなかったシステム。私が大学生の頃と言えば、ジュリアナ東京にお立ち台、ワンレンボディコンのおやぢギャルが闊歩した時代(ああ!年がバレル!)。学生の本分は合コンと信じることができない連中は精神世界へダイビングの旅に出て戻らなかったりして(あ、私はどっちでもなかったよ!)。
 自分が今、ボランティアに夢中になるなんて、考えもしなかったなー。

●編集長から:小西喜朗
 渋谷アクティビティの報告にあったように、現場では楽しいことだけでなく子どもたちがイヤな思いをすることもある。砂場で遊びながら、おもちゃや場所の取り合いが起こったり、何をつくるかでケンカをしてしまうのと同じことがアクティビティでは起こる。
『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』という本があったけれど、目の前に相手がいるのとそうでない場合は、ずいぶん違ってくるはずだ。また、パンゲア・サロンにあったように世界にまでフィールドが広がるとき、こうしたイザコザはどのように発生し、どう解決されていくのだろうか。「であう」段階では生じなかったことが、「つたえあう」「つながりあう」ところで、大きな課題になってくることもある。アクティビティとメディアツール、パンゲア・サロンの融合がとても楽しみである。