2004年8月

■◇■ 今月のもくじ =================☆=
■ 今月のつながりアクティビティ:「パンゲア@渋谷」  
■ 特集:パンゲア・コミュニケーター発進!(最終回)
        ~想いはつながっていく~
■ 研究室から:第2回『パンゲア・サロン』開催    
■ 告知:絵文字アンケート改定版・ひきつづき回答者募集!
■ パンゲア日記(編集後記)
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■■ 今月のつながりアクティビティ ━━━━━━━━━━━━
━━ 「パンゲア@渋谷」 ■■━━━━━━━━━━━━━━━★
 
 小中学校での「つながり」を深めるパンゲア・アクティビティも7月で合計6回を迎え、子どもたちもずいぶん場に馴染んできた印象。17日には第3回目の小学生アクティビティを渋谷区立鳩森小学校と代々木小学校にて開催。猛暑が襲うなか、汗びっしょりで9月開催のネット対戦「パンゲアTV・クイズなにこれ?」に出す問題を作成した。
 「パンゲアTV・クイズなにこれ?」は、アクティビティの中間目標の一つ。互いの学校から写真やイラストを使ったクイズを作成し、問題を解き合う対戦をネットを通じて行う。「ぐるぐる」と「うにょん」と呼んでいる画像クイズは、各学校の身近なものをデジカメで撮影し、そこに画像加工を行う。「ぐるぐる」では、渦巻きになった写真が徐々に元の写真に戻っていくなかでどれだけ早く正解を出せるかを競う。
 写真が渦巻き状に加工された画像の変化を見て、何を撮れば面白いのか、意外性が見えるのかに想像を巡らし撮影してくる。それをパソコンに取り込んで、画像の変化に目を輝かせていた。
 もう一つは、「コマパラ」クイズ。4枚の組写真から連想する答えを当て合うというもの。いずれもクイズであるから、難易度を上げれば相手は答えられない。しかし、難しすぎて答えられないと相手はシラけてしまう。
 こうした体験を、まずは一人ひとりがクイズを作成し、それをグループで共有しあう。次に各グループ同士が学校のなかでクイズを出し合って体験してみる。9月には学校対抗での体験をしながら、「つたえる」こと、「つながる」ことを感じていくのが狙いである。
 
 こうしたアクティビティを支えるのはパンゲアのボランティアスタッフたち。毎回、各校に10名以上がファシリテーターとして参加している。その一人、中野里美さんは、「今回初めて小学校のアクティビティに参加しました。子どもならではの旺盛な探究心や抜群の発想力、集中力に触れ、改めて感服しました」という。
 クイズの発表の際、思いもよらない工夫が凝らされた作品を見て、全員で感動し拍手喝采したシーンがあった。「全員」の中にはもちろん大人たちも含まれる。
 「作品を見てスゴイと思ったその感性が、年の差だとか社会経験の長さだとかに関係なく一致したことが、私にとってもうひとつの感動でした」(中野さん)
 楽しんでいるのは、実は子どもたちよりも大人のほうだったりするのがパンゲアの面白いところ。果たして、これはボランティアなのだろうか・・・。
 「子どもに遊びの場を提供しているのではない。おおきな子どもが、こどもと共に遊んでいる。本当に楽しいと思ったことだけが、伝わる。だから、おとながまず楽しみ、そして、産まれる中心の言葉を、共に聞きたい」と、渋谷アクティビティ企画&実施チームのリーダーを務める向井清二さんは語る。
 子どもたちが交流しあう姿を通じて、コミュニケーションをいちばん学んでいるのはもしかすると大人たちかもしれない。子どもたち同士よりも、子どもと大人のほうに大きな境界があり、お互いの違いや共通点にファシリテーターが感動する。
「おもしろいことがおこりそうな予感は、1回ごとのアクティビティで感じます。その積み重ねはきっと、たくさんの子どもたちと、たくさんの大人たちをまきこんでいくと思います」と、ファシリテーターを務める増田多未さんは語る。
 パンゲアは、大人と子どもというもう一つの異文化交流の場でももあるようだ。アクティビティーの終わったすぐ後、「今日、一日一緒に遊んだ子どもたちが、もう恋しくなっている」と中野さんは語っていた。


■■ 特集 パンゲア・コミュニケーター発進!(最終回)━━━━━━
━━━━━  ~ 想いはつながっていく ~ ■■━━━━━━━━━★
 
 世界の子どもたちが言語や文化の壁を乗り越え、互いにコミュニケーションしていくためのツールがパンゲア・コミュニケーター。この開発について連載を続けてきましたが、最終回となった今回は情報デザイン、つまりパンゲア・コミュニケーターの設計についてレポートします。

●いかに情報デザインを行うのか
 これまで単語である「絵文字」、文章を構成するための「定型文」について述べたてきた。しかし、これだけではコミュニケーションの道具にはならない。絵文字と定型文をデータベースに納め、現実に動くようにするためのプログラムを作成していかなければならない。それがパンゲア・コミュニケーターの情報デザインである。
 この開発はパンゲアの技術開発責任者である高崎とMITのルーク・オーコ(Luke Ouko)さんが互いに協力しあいながら進める。オーコさんはMITメディアラボのウォルター・ベンダー所長率いる研究グループに所属、データベースの設計を専門としている。今年の夏に修士課程を卒業し、今後は研究員として活躍する。8月末から3週間の予定で日本に来て、高崎とともにデータベースの設計に入ることになっている。
 「彼は、ケニア出身ですが、2年前パンゲア・アフリカを立ち上げに森さんとケニアを訪れたときにお世話になった方々をオーコさんもよく知っていました。本当に世界は狭いなぁ!と思いましたよ」(高崎)
 そんな偶然も重なりながら、二人は呼吸をぴったりとあわせ日本で集中的に情報デザインを行う。いかに効率よく絵文字や定型文をデータベースに組み込むのかがテーマである。
 現在、多摩美術大学のチームでは、一つの単語に対して一つの絵文字を描いてもらっている。しかし、一つの単語に複数の意味が含まれることも多い。ところが、絵文字にした途端に一つの意味に固定してしまう。ということは、単語と絵文字を1対1で単純に組み合わせても意味はつながらなくなってしまうのだ。
 「この矛盾を解決するには、絵文字と定型文、現実の言葉の関係を考えながら、データベースを設計することが大切です。複数の意味を持たせた単語帳をいかに構成すれば、ちゃんと意味を伝えられるデータベースをつくれるのか。定型文のなかで、単語を入れ替えることができるようにするのはどう設計すればいいのか」(高崎)
 たとえば、「私はリンゴが好きです」というのと、「私は野球が好きです」というのは同じ定型文を使う。そうしたことを効率よく行えるようにデータベースを構造化していくという。
 今後、9月末を目処に開発用の2種類のツールを作成。一つはスタッフが辞書を追加修正するために使うためのソフトウェア、もう一つはボランティアたちが翻訳を行うためのソフトウェアである。そして、11月にはいよいよパンゲア・コミュニケーターのプロトタイプが完成。いま、渋谷でアクティビティに参加している日本の子どもたちと海外の子どもたちで、どのようにコミュニケーションが成立するのかを実験していく予定である。

●想いはつながっていく
 絵文字を監修する玉置さんは、「いつか遠くない将来にテクノロジーの発達でより精度の高い多言語同時翻訳ソフトが登場する可能性は高いでしょう。そのとき、パンゲア・コミュニケーターがまったく意味のないものになるわけではないと思います。何より “絵”であること自体が子どもたちの右脳を刺激し、創造性を高めることに繋がる。そこが大事なんだと思っています」と語る。
 全体を監修する高崎さんは「パンゲア・コミュニケーターには夢があります。想像するだけでワクワクします。子どもたちがパンゲア・コミュニケーターを使って、他の国に友だちができていく。はやくそれを見たい!」と夢を語る。
 そして、渋谷区立の小中学校でアクティビティに参加する子どもたちが、インターネットTV電話を使った交流でとてもエキサイトしていた様子を見て、「パンゲア・コミュニケーターをはやく作ってあげたい!そして自分自身でも使って、言語がまったく違う人たちとコミュニケーションしたい」と、制作への熱意を一層高めたという。
「コミュニケータを使って、子どもたちが出会い、自分に関心を持ってもらえることで、相手のことにも興味を持てるようになるでしょう。ここで初めて、相手が使う言語が“関心ごと”として意味を持ってくる。そして、『あの子と直接、もっといろんなことを話すために、彼の国の言葉を習いたい!』という欲求が子どもたちの中で芽生え、“出会い-伝えあい-つながりあう”という一連のフェーズが完成される。そんな考え方がパンゲア・コミュニケーターには込められています」
 あらゆる言語に翻訳された「多言語定型文データベース」がネットワーク上に構築され、世界中の子どもたちが母国語と「絵文字」を使って、自由に互いの想いを語りあう。そんな日を夢みて、「こんな夢のあるツールの開発に自分も携わっているのは非常に楽しいし、やりがいがあります」と、高崎は熱く語る。パンゲアの実現に込める熱意は、MITメディアラボの研究者たちの気持ちに火をつけ、日本そして世界中の協力者たちを巻き込み、さらに多くのインターネット・ボランティアへと広がり始めた。
 パンゲア・コミュニケーターの制作過程がそのまま文化・言語・時間・空間の壁を超え、「出会い-伝えあい-つながりあう」ことのプレイベントとして、いま大きな広がりを見せ始めている。夢が実現する日はそう遠くはない。


■■ 研究室から ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 『パンゲア・サロン』開催のお知らせ ■■━━━━━━━━★

「パンゲア・サロン」では「ネット社会におけるつながりとは」をメインテーマに年6回の研究会を予定。毎回2部構成にて開催し、第1部では、渋谷区で行っている“つながりアクティビティ”の報告を、第2部では研究会メンバーがそれぞれの関心領域から、年間テーマにつながる内容のトークセッションを行い、より具体的に“つながり”の定義やあり方について考えて行きます。
 第2回目は8月23日(月)。第2部のトークセッションでは、「つながりを求める異文化コミュニケーション」がテーマです。
 パンゲアは、国際交流を世界中に広めていくことを目指しています。では、異なる文化的な背景を持つ子供たちが各々の文化的な背景を乗り越え、いかにして友人としての“つながり”をネットワークの中で形成することができるのか。これはたいへん大きなテーマであり、事前に十分に検討しておく必要があります。
 この課題を検討していく第一歩として、第2回パンゲア・サロンの第2部では、在日外国人の専門家をゲスト・スピーカーとして招き、渋谷区の生徒を初めとする日本の子供たちが、海外の人々の眼にはどのようなイメージとして写っているのかを分析していただきます。

【研究会:パンゲア・サロン】

●と  き:2004年8月23日(月)18:30~21:00(受付開始18:00)
●会  場:丸ビル7F・東京21Cクラブ(東京駅丸の内側)

●プログラム
 ・第1部:つながり・アクティビティ ~渋谷からの報告~
 ・第2部:つながりを求める異文化コミュニケーション
      ~ゲストスピーカーとパンゲア専任研究員によるセッション~

 <ゲストスピーカーおよび進行>
 ・ウイリー・トコ
   コンゴ民主共和国出身・東京大学大学院学際情報学府・修士課程
   アフリカにおける日本のイメージ及び日本におけるアフリカのイメージ
   に関する社会学的な調査研究を行っている。
 ・池 賢淑
   韓国出身・東京大学大学院学際情報学府・修士課程
   デジタル・コンテンツに関する法律の研究を行う一方で、韓国の若者を
   魅了するネット文化に関する調査も実施している。
 ・朝川哲司(進行)
   NPO法人パンゲア理事/アクティビティ実施担当
   異文化コミュニケーションの研究を基盤に、国際交流プロジェクトへの
   参加及び異文化トレーニング・システムの開発を行っている。

 <スピーカー(パンゲア専任研究員)>
 ・渡辺保史(智財創造ラボ・シニアフェロー/パンゲア・フェロー)
 ・朝川哲司(NPO法人パンゲア理事/アクティビティ実施担当)
 ・篠原稔和(ソシオメディア株式会社代表取締役/パンゲア・フェロー)
 ・前田邦宏(株式会社ユニークアイディ代表取締役/パンゲア・フェロー)

  ※一般のご参加はご案内しておりません。


■■ 告 知  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 絵文字アンケート・ひきつづき回答者募集中!!! ■■━━━★

 ☆★☆絵文字アンケートサイトについて☆★☆

  URL  :http://www.pangaean.org/iconsurvey/  
  パスワード:icon

 絵文字アンケートに多数のご協力をいただき、ありがとうございます。
 パンゲア・コミュニケーターのいわば「単語」である絵文字が、現実に「子どもたちにはどう見えるのか」を、すでに100名以上の方々に入力していただいていますが、これまでの絵文字アンケート結果を踏まえた改良版の絵文字を掲載しています。すでにご協力していただいた方にも再度トライしていただきたく、よろしくお願い致します。
 また、現アンケートシステムでは被験者個人を特定できるデータ(住所・電話番号・メルアドなど)を取り扱っていませんが、ご協力をいただいたデータの取扱については「絵文字アンケートのポリシー」を掲載しました。プライバシーおよび取得データの取り扱い、著作権等について述べていますので、ご参照ください。
 
  http://www.pangaean.org/iconsurvey/
  上記URLの右下、「絵文字アンケートのポリシー 」からリンク。

 ☆★☆パンゲアコミュニケーターが
    TV・新聞にて紹介されました!!☆★☆

 6月23日に朝日小学生新聞に掲載された記事を受け、全国テレビ朝日系列「キッズニュース」という子供向け情報番組にて、パンゲア・コミュニケーターの絵文字開発についてのニュースが放送されました。


■■ パンゲア日記(編集後記) ■■━━━━━━━━━━━━━━━━★

●デスクから:山崎麻里子
 毎日あっついですね。あまりの暑さに思考が停止して、この言葉がまるでスイッチでもあるように、メールの書き出しの定型文化してます。
 身体もなんとなくだるい毎日。昨日の朝、浴室で顔を洗おうと鏡を見たら右目が真っ赤に!充血なんてレベルではなく、明らかに血のカタマリが白目の中に浮いている!あわてて近所の眼科に駆け込んだところ、先生いわく「あー、それ鼻血みたいなもんでね」と軽くあしらわれてしまいました。駅前の薬局のおばちゃんもからも同じコメントをいただいてます。
 「台風が近づいて気圧が下がるとそういう人がよく来るの」という先生の説明はトリビア的だけれどいまひとつ意味不明。そろそろ会う人にごとに聞かれるのが面倒で「台風が来たので目から鼻血がでたんです」と、かなり端折って答えることにしています。まず笑われますが、笑ってもらうことが何よりの良薬かな。。。

●編集長から:小西喜朗
 何かに出会ったとき、どれだけ偏見なく物事を見たり、判断できるのだろうか。白紙の状態で何かを見るというのはほとんど不可能だ。そこに自分自身の思考パターンやら価値観、枠組みというものが自ずと入ってしまう。
 歩くときに、私たちは右の足から出そうか、左の足から歩きはじめようかと迷わない。自然に片方ずづつ、一歩ずつ足を前に出して歩いている。同じように、私たちは何気なく自分なりの言葉でコミュニケーションしているようだ。そうした一つひとつの言葉は、自分なりの一つの枠組みに過ぎないという、実は当たり前の現実に、パンゲアでは出会ってしまう。
 アクティビティって、面白いっすよ!