2004年7月

■◇■ 今月のもくじ =================☆=
■ 今月のつながりアクティビティ:「パンゲア@渋谷」  
■ 特集:パンゲア・コミュニケーター発進!(第2回)
■ 告知:絵文字アンケート回答者募集!
■ パンゲア日記(編集後記)
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■■ 今月のつながりアクティビティ ━━━━━━━━━━━━
━━ 「パンゲア@渋谷」 ■■━━━━━━━━━━━━━━━★
 
 世界の子どもたちがネットを通じて「つながり」を深めることを目指すパンゲア・アクティビティ。その最初の活動が5月に渋谷区の2つの小学校でスタートしてから、中学校を合わせると既に計4回のアクティビティが終了しています。
 渋谷アクティビティの年間計画では、パンゲアのアクティビティ理念の基礎となる「であう」「つたえあう」「つながる」の3つのフェーズに合わせ、「ネットテレビでこんにちは」「クイズなにこれ?」「パンゲア・メディア作成」という大きな流れを準備しています。
 そして、毎回終了時にメンバー間で内容のフィードバックを行い、より子供たちに楽しんで参加してもらえるよう、次回の内容に修正をかけながら進めています。
 1回目のネット中継が予想以上に盛りあがり、交流への期待感が高まった小学校では、いよいよ2回目に海外とのネット中継を体感してもらうことに。当初の予定を若干変更し、「海外ネットでこんにちは」「クイズなにこれ」のアイデアだしの2つが活動の中心になりました。
 「海外ネットでこんにちは」は、米国ボストンにいる、MITメディアラボ研究員でパンゲアフェローでもあるレオナルド・ボナーニさんへのインタビュー。日本時間では午後2時、ボストンは午前1時ということで、レオナルドさんは濃い目のコーヒーでばっちり目を覚ましてからの登場でした。
 彼はお父さんがイタリア人、お母さんがフランス人、ご自身はベルギーで生まれ育ち、中学校からアメリカに渡り、現在はボストンにお住まいです。イタリア語、フランス語、英語の3か国語を自由に操り、非常に国際色豊かな環境で暮らしてきた方です。
 インタビューでは大人の通訳が間に入りましたが、子どもたちは臆することなくレオナルドさんの子供時代の様子や、将来やりたい仕事や夢などについて質問していました。はにかみながら直接英語で話しかけてみて、すぐに彼から返事をもらえたときの、ひとりの男の子の本当に嬉しそうな笑顔が印象的でした。
 後半は、9月に実施予定のネット対戦型クイズ番組『クイズなにこれ?』で出題するクイズのアイデアだしです。相手の反応を想像しながらクイズを作っていくこの作業は、パンゲア・アクティビティの3つのフェーズ、「であう」「つたえあう」「つながる」の2番目、「つたえあう」ことを子ども達に体感してもらうことを目的としています。クイズのコツを具体的に理解してもらうツールとしては「クイズなにこれ?7か条」というものを用意しています。

 一、 いい問題は ともだちの【1人か2人だけ】わかる。

 一、 あなたの【びっくり】は 友達も先生だって、びっくりする。

 一、 だれにクイズを出すのかを、よーく思いうかべる。

 一、 ヒントはだんだん、じわじわ分かるようにする。

 一、 写真の撮り方しだいで、知ってるモノも【ひみつ】になる。

 一、 モノのらしさ(特徴)をはっきりと、見つける。

 一、 ともだちみんなで話すときは、なんでも言えることが大事。

 この7か条を参考にクイズを作っていく作業のなか、子どもたちが「どうしたら相手をびっくりさせられるのか?」「なかなか当てられなくてみんなが悔しがるクイズはどんなものか?」など、クイズ作りの楽しさを知り、そのなかでコミュニケーションというものを学び取ってもらいたいと考えています。
 興味深いのは、グループ作業のなかで子どもたち同士が自主的にアイデアのダメだしをしている光景です。この年頃の、とくに男子に顕著ですが、大人が下品だとタブー視するような言葉がやはり多く登場します。たとえば“死体”とか、“うんち”など。実は私たちはあえてタブーワードについて子どもたちに伝えてはいませんでした。しかし、ある数人の子どもたちのなかで、このような言葉に関心が集中しても、少し冷静な視点を持っている別の子の一言でひっこめたり、他のグループに出題してみたとき、予想に反して盛り下がってしまうことで、その意味を学び取っているようなのです。

 現在渋谷区のみで行なわれているアクティビティでのこうした蓄積は、地域に展開するときにとても役立つと考えています。また、小学校と中学校という発達段階が異なる子どもたちに対して、同様のアクティビティを平行して行なうことは、彼らの興味領域や理解スピード、深さなどを見極め、それぞれにふさわしいアクティビティを創り上げることに役立ってくれるでしょう。

「7月はクイズで使う写真素材の撮影のため、屋外活動も始めます。こうしたリアルな体験と、ネット上のバーチャルな体験が交差する中で、子どもたちが自然とお互いの"つながり"を感じ取っていけるようにすることが、パンゲアアクティビティの目標です。


■■ 特 集  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ パンゲア・コミュニケーター発進!(第2回) ■■━━━━━━━★
 
 世界の子どもたちが言語や文化の壁を乗り越え、互いにコミュニケーションしていくためのツールがパンゲア・コミュニケーター。前回は、絵文字の開発についてレポートしました。
 しかし、絵文字の開発だけでは、実はコミュニケーションは成立しません。「絵文字」というのは「単語」であって、単語だけを並べても言葉は通じないからです。そこで、パンゲア・コミュニケーターのもう一つの大きな柱になる「定型文」について、今回はご紹介します。

●「定型文」の作成への取り組み
 外国語を習うとき、単語だけでなく構文や熟語を覚えないと言葉はうまく通じない。こうした構文にあたるのが定型文である。
 「絵文字と定型文を組み合わせたインターネット上のコミュニケーションというのは、世界でも例がなく、非常に面白い試みだと思っています」(高崎)
 では、どのような「定型文」を用意するのか。AAC (Augmentative and Alternative Communication: 拡大・代替コミュニケーション)という何だか難しい名前の学問分野があるが、これは障害を持つ人たちがコミュニケーションを円滑にするにはどうすればよいのか、ということが発端で発達してきた。
 たとえば、手話や簡易な絵文字のようなシンボルを使ったコミュニケーション、口や視線で伝えたい事を選択できるコンピュータ入力装置などが含まれる。「このAACでの定型文は、人と人とのコミュニケーションに特化しています。そこで、AACでの蓄積をパンゲア・コミュニケーターの定型文を選定するときのモデルにしつつ、子どもを対象とした表現を加味しています」(高崎)
 まずは、英語で定型文リストを作成し、それをストックホルム大学のバイリンガル研究センター(Centre for Research on Bilingualism)で教鞭をとるキャロル・ベンソン(Carol Benson)さんが監修アドバイスする。現状、1300種類の定型文になっているが、それをいかに論理的に整合性をとりつつ減らしていけるかが大きなカギとなる。
 こうした定型文をリストアップしていくなか、高崎さんがいちばん苦労するのが「分類すること」だという。たとえば、定型文を選びやすいインタフェースにするためには、定型文を分類してインデックス化しないといけない。これは絵文字についても同じだし、パンゲア・コミュニケーターからは離れるが、例えば子どもたちの撮った写真の管理でも同様の問題が出てくる。
 「ソフトウェアとして創るとき、私たちは分類項目を具体的に決めなくてはいけない。しかも分類には必ず例外がつきもので、これが非常にやっかいなんですね。0と1で動くコンピュータ上では、どんなことでも白黒つけないといけない。こうした世界に人間の知識や概念など曖昧なものを入れていくのは、ちょっとしたことでも非常に難しい。しかし、幸いなことに、開発を手伝ってくださる方々には、それぞれの分野での専門家がたくさんいます。的確なアドバイスと励ましのメッセージを送っていただき、非常にありがたいと感じています」(高崎)
 7月には第1弾の定型文リストの完成を目指しており、パンゲア・アクティビティを実施している渋谷区の子どもたちの自己紹介文や質問文などに適用できるかの導入テストを行う予定だ。絵文字と定型文を組み合わせてどのように活用できるのか、インターネット上でショートストーリー作りを行うWebアクティビティも検討中である。
 その後、「英語の定型文を各言語へ翻訳」することで、各言語で同じ意味を持つ「定型文リスト」ができあがることになる。 「この翻訳は、インターネット・ボランティアの方々に協力をお願いしたいと思っています。実は、MITのメディアラボにOpenMind-Common Senseというプロジェクトがあります。いわゆる一般常識をコンピュータにどんどん入れていくことで、人間的な常識を持つコンピュータを創ろう!という、私的には非常に興味深いプロジェクトなんです。ここではインターネット・ボランティアの方々に協力していただいて知識を増やしていくという方法をとっていますが、今回の定型文リストの作成にとても参考になります」(高崎)
 同様の方法を使って、各言語でのボランティア翻訳を9月末にスタート、11月には初期バージョンのシステム構築を予定している。
 現実に、「絵文字」と「定型文」を組み合わさったとき、子どもたちはパンゲア・コミュニケーターをどのように使い始めるのだろうか。「私たちにはまったく予想もしなかった使い方を始めるかもしれませんね。それも、また楽しみの一つです」と高崎は楽しそうに語る。


■■ 告 知  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 絵文字アンケート回答者募集中!!! ■■━━━━━━━★

 ☆★☆絵文字アンケートサイト☆★☆

  URL  :http://www.pangaean.org/iconsurvey/  
  パスワード:icon

 パンゲア・コミュニケーターのいわば「単語」である絵文字の開発についてVOL2の特集で詳しくお伝えしましたが、現実に絵文字は「子どもたちにどう見えるのか?」 「文化圏の違う人たちに同じように理解されるのか?」は大きなカギとなります。
 そこで、この6月から「パンゲア絵文字アンケート」Webサイトを立ち上げました。候補になっている絵文字をWeb上で見ていただき、何に見えるかを入力してもらうサイトです。

 日本の子どもたちからは、
  ・子どもたちにって分かりやいデザインか?
  ・抽象的な言葉にはどの程度の"ルール"が必要なのか?
 海外の子どもたちからは、
  ・文化圏の違いによる各絵文字の認識の違いは?
 について、それぞれ調査することを目的にしています。

  まずは現在できている220個の絵文字に対して調査を行ないます。6月~7月は日本で、8月以降はカンボジア・アメリカ・アイルランド・ケニアなどに積極的に働きかけ、 データをとっていく予定です。9月からは更に300個の絵文字を追加します。年内をめどに全世界でデータをとり、その後も結果に基づいて修正された絵文字をテストしていく予定です。

 アンケートサイトは朝日小学生新聞(6月23日掲載)やTV朝日系列のキッズニュース(7月予定)などで告知させてもらうことができました。また、渋谷区の子どもたちにも協力も得て、より多くのデータを集めたいと思っています。
 皆さまも是非とも「パンゲア絵文字アンケート」にアクセスして、身近な子どもたちに協力をお願いしてください。


■■ パンゲア日記(編集後記) ■■━━━━━━━━━━━━━━━━★

●デスクから:山崎麻里子
 渋谷でのアクティビティも計4回。月に一度しか会えないけれど、子どもたちの顔と名前がだんだん一致してきました。アクティビティのない日曜日、渋谷付近を通りかかると、ふと彼らの顔が浮かびます。いつかばったり出くわすこともあるかもあるかもしれない、と思うとなんだか楽しくなっちゃいます。電車の中でひとりウフフとニマついたりしていますが、傍からみたらたいそうアヤシイ人、ですよね。

●編集長から:小西喜朗
 「パンゲアって、知ってる?」と、飲み屋でたわむれに知人に訊いてみる。すると、「なに? わからない」という答えがやはり多い。
 「では、どんな印象がする、イメージは?」と尋ねてみると、「何だか楽しそうな雰囲気」「いろいろな色が混ざっていそう・・」「にぎやかそうな気がする」といった答えが返ってくる。たまに、「食べ物?」という人もいるが、アゲパンと勘違いしているのかも(そんなことはないか!)。
 ともかく、こうして質問した後にパンゲアの説明をおもむろにはじめるわけだが、言葉からくるイメージは、ほとんどが明るくて楽しげ、そしてプロジェクトの内容にみんな目を輝かす。アルコールが進むに従い、パンゲアの夢は広がり、目の前の景色はどんどんカラフルに溶けあっていく。