2004年6月

■◇■ 今月のもくじ =================☆=
■ 今月のつながりアクティビティ:「パンゲア@渋谷」スタート
■ 特集:パンゲア・コミュニケーター発進!(第1回)
■ 研究室から:第1回『パンゲア・サロン』開催のお知らせ
■ パンゲア日記(編集後記)
■ ボランティアスタッフ募集
=☆========================■◇■



■■ 今月のつながりアクティビティ ━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 「パンゲア@渋谷」スタート!  ■■━━━━━━━━━━━━━★
   
 世界の子どもたちがネットを通じて「つながり」を深めることを目指すパンゲア・アクティビティ。その最初の活動が、5月15日、渋谷区の2つの小学校にて開催されました。
 このアクティビティには鳩森小学校の3年生から6年生までの生徒11名と代々木小学校の生徒18名が参加、「いったいどんなことをするのだろう」という不安と期待が入り混じる小学生に、まずは子供たち同士でインタビューを相互に行う「たこ紹介」からスタート。自分の好きなことや得意なこと、将来の夢などを語り合うちに、空気はどんどん和み、笑顔の輪が広がっていきました。

 その後、これからの共同作業グループをつくるための「クイズを解いてお宝発見」、初めての共同作業としての「グループ紹介カードをつくろう」、ビデオ会議を通じて交流相手校の子供たちとリアルタイムで交流する「ネットテレビでこんにちは」、そして次回の交流プログラムの事前体験として「何コレ用ネタ探し」など、盛り沢山の活動を行いました。
 どのプログラムも参加した子供たちは楽しそうに参加していましたが、インターネットを使ったビデオ会議はとくに好評でした。

 テレビと同じように映し出された交流相手校の生徒たちを見て、驚くとともに大きな歓声をあげる子どもたち。照れる子もいれば、画面越しに懸命に自己紹介やグループ紹介をする子どもたち、はしゃいで少々はめをはずしたり、どの子供たちも学年の差を感じさせず、わきあいあいと交流を楽しんでいました。

 次回の交流活動は6月19日に実施する予定ですが、現在、国際交流の要素を含んだプログラムを準備しています。初回からさらにうち解け、小学生の皆さんが自分たちをさらにどう表現していくのか、そしてどんな交流が広がるのか、次回のレポートにご期待ください。



■■ 特 集  ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ パンゲア・コミュニケーター発進!(第1回) ■■━━━━━━━★
 
 世界の子どもたちが自由にコミュニケーションできる環境をつくろう! インターネットのなかで言語や文化の壁を乗り越え、互いに出会い、自分たちのアート作品を通じて交流しあう、感想を述べあいながら互いのつながりを深めていくことができる、そんな環境をつくっていくのが私たちパンゲア・プロジェクトの大きな目的です。

 こんな夢のような世界をほんとうに実現できるのか。言葉も文化も違う子どもたちが、互いに交流していくための方法は? その答えが「パンゲア・コミュニケーター」です。インターネット上で、子どもたちが言語の壁を超えて互いに交流できるコミュニケーション・ツールを新たに創り出すという壮大なプロジェクトであり、2005年11月のグローバルサイトオープンに向け、いよい
よ開発が進んでいます。

 今月からの特集では数回に分け、パンゲア・プロジェクトの大きな柱である「パンゲア・コミュニケーター」についてご紹介して行きます。

●世界の子どもたちが交流できるために「絵文字」を開発 

 いま英語が世界の共通言語、国際言語であるような印象がある。日本でも小学生あるいはそれ以前から英語教育をしようといった考え方もあるが、パンゲアでは「ある一つの言語」を学ぶことを目指しているわけではない。

 たとえば、アメリカの子どもと英語を習った日本人の子どもとの間では、英語を使って会話ができるだろう。しかし、そこに英語がわからない子どもが一人参加すると、もう会話は成立しない。英語を知っているかどうかで壁ができてしまう。
 どの言語圏に属していても、共通に会話できる新しいコミュニケーション体系がそこに必要になってくる。ある一つの言語ではなく、世界中の子どもたちが直感的に理解しやすいものにしていきたい。こんなところから、「絵文字」を使うことで言語を超えたコミュニケーション方法を確立しようという発想が生まれた。

 しかし、「絵文字」を使えばそれでコミュニケーションができるかと言えば、そう簡単ではない。同じ「絵」でも、文化によって捉え方が違うこともある。
個々人によっても違うだろう。たとえば、「好き」という言葉を表現するのに「ハート」を使ったとき、あるところでは「心臓」だと思うかもしれない。

 「そうです。同じ絵文字でも文化間によって違う受け止められ方をされることがあります。そこで、異文化間で絵文字がカスタマイズできるような仕組み、つまり絵文字自身が自動翻訳されるような仕組みを実現しようと開発を進めています」と、NPO法人パンゲアの副理事でもある、開発総責任者の高崎俊之は語る。

 さらに、文化による差異だけでなく、個人でも絵文字を自由にカスタマイズできる枠組みを試みているという。たとえば、自分で絵文字をデザインして使ってみたり、友達が使っている絵文字を自分で使うなど、自分のお気に入りの絵文字辞書を作っていくことができる。

 では、どのようにコミュニケーションが成立するかを具体的に見てみよう。たとえば、「君が描いた絵、すごく好きだよ!」という日本人の子どものメッセージは、まず日本語が絵文字に翻訳される。と同時に、その絵文字を介して
別の母国語にも翻訳される。相手は絵文字と母国語の両方で、メッセージを受け取ることになる。つまり、母国語を知っているだけで、世界中の子供たちと交流できるネットワーク型のソフトウェアということになる。

 さらに、「好き」を表す「絵」を各言語によって変えたり、自分だけの「絵文字」にカスタマイズすることで、自分なりの絵文字体系に創り変えることもできる。「絵文字」は同時に異なった言葉を結びつけるいわば「中間言語」でもあり、自分の好みでデザインできる自分言語にもなる。個人レベルにまでカスタマイズできるからこそ、あらゆる言語を超えて互いにコミュニケーションできるツールとなる。

 また、子どもたちが自分で絵文字をデザインでき、ネットで共有できる「ネットワーク型お絵かきツール」を、今期の夏休み前を目処に開発していく予定だ。

●絵文字は「未完成」なほうがいい

 現在、コミュニケーターの開発チームでは、約850語の絵文字開発を進めている。C.K.Ogden(1889-1957)という言語学者が1930年に提唱した、"850語の英単語さえ知っていれば基本的な英語でのコミュニケーションは成立する"という理論がある。そこで、この850語の単語リストを参考に、現代風に、そして子ども向けにアレンジした単語リストを作成し、それを絵文字にすることで、最低限必要なコミュニケーションを図れるようにする。

 「絵文字」のグラフィックデザインは、多摩美術大学の玉置朝男先生率いる学生グループ約18名によって進められ、5月末現在で約100語の絵文字ができあがっている。
 「3年生を中心にパンゲアの趣旨を説明して呼びかけ、関心を持ってくれた学生にボランティアとして参加してもらっています。デザインとしては完成していないほうがいい、例えばアフリカの大地に描いた落書きのようなものがいい」と、玉置さんは語る。

 子供の頃、棒キレや石ころを使って、床や字面に落書きをした思い出はないだろうか。上等な紙やクレヨンを使って描いた絵ではなく、好き勝手に落書きを楽しんでいるような、そんな未完成なデザインが子どもたちの感性を刺激するというわけだ。
 「それを見た子供たちが興味を示し、自分たちも新たな絵文字を創ってみたいと思わせるようなデザイン、子供たち自身がデザインを考えるヒントになるようなものにして欲しいと、学生にはお願いしています」(玉置さん)

 この絵文字作成が楽しくて、すっかり「のめり込む」学生も多い。その一人は「わかりやすい絵文字とはどんなものか、自分で考えながら創ってゆく作業がとても楽しいですね。この作業が"人と人との関係をつなぐものを創りだす"ものだということにとても魅力を感じています。この絵文字は子どもたちが主体になって使うものだということ、これを使ってうまくコミュニケーションできるようにするためのものなのだということを常に念頭におきながら作業することが大切だし、それを思うととても楽しい」という。

 だが、「うまくコミュニケーションできる」ようにするのは簡単なことではない。とくに、動詞と形容詞のデザインには苦労するという。例えば、「行く/来る」「高い/低い」「好き/嫌い」など。
 「抽象的な言葉がとても難しい。デザイン化したときに、個人的な認識のズレが如実に現れるので、わかりやすそうに見えるものでも何度もチェックをかけています」(玉置さん)
 こうして作成された絵文字は、現実に子どもたちにどのように見えるのかをインターネットを使って確かめていく。
 
「現在はプレテスト版をまずは大人の方々に試して頂いているところです。まず、デザインされた絵文字自体が、多くの子供たちにとって意味を成すのかどうか。とくに「美しい」や「遠い」といった抽象的な単語に対する絵文字については、まずはパンゲアとして、ある程度のルールを決めなくてはいけないでしょう。次に、文化的な違いがあるかどうか。文化的差異がでやすい言葉については、カンボジアやアイルランド、ケニア、ブラジルなどにいるコラボレーターに、インターネット絵文字アンケートに参加して欲しいと思っています」(高崎)

 しかし、こうした絵文字の開発だけでは、実はコミュニケーションは成立しない。「絵文字」というのは「単語」であって、単語だけを並べても言葉は通じないからだ。そこで、パンゲア・コミュニケーターのもう一つの大きな柱になるのが「定型文」の作成である。

 さらに、いかにシステム構築を行っていくのか。こうした「定型文」の作成や「情報デザイン」の詳細については、次回ニュースレターにてご紹介します。



■■ 研究室から ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━ 第1回『パンゲア・サロン』開催のお知らせ ■■━━━━━━━━★

 来る6月28日(月)、いよいよ、研究会「パンゲア・サロン」をスタートさせます。「パンゲア・サロン」は、年6回開催予定。テーマは「ネット社会におけるつながりとは」、そして「ネット・セキュリティ~子どものリテラシーとテクノロジー」。

 1回目の「パンゲア・サロン」では、第1部で、渋谷区の4つの学校で始まった「つながりアクティビティ」の活動報告を、そして、第2部では、4人のパンゲア・メンバーによるセッションを行ない、人と人の「つながり」をそれぞれの研究領域から語り、今年1年の研究会でたどっていく探求の道筋を浮き彫りにしていきます。サロンは、研究会協賛メンバーの方々とパンゲアのアドバイザー&フェローの方々で実施していきます。サロンの実施の模様は、このパンゲア・ニュースレターでもレポートしていきますのでご期待ください。

【研究会:パンゲア・サロン】

●と  き:2004年6月28日(月) 18:30~21:00(受付開始18:00)

●会 場:丸ビル7F・東京21Cクラブ(東京駅丸の内側)

●プログラム
 ・第1部:つながり・アクティビティ ~渋谷からの報告~
 ・第2部:「パンゲア研究会が目指すもの」
       ~パンゲア専任研究員によるセッション~
 ・研究会参加者
  渡辺保史(智財創造ラボ・シニアフェロー/パンゲア・フェロー)
  朝川哲司(NPO法人パンゲア理事/アクティビティ実施担当)
  篠原稔和(ソシオメディア株式会社代表取締役/パンゲア・フェロー)
  前田邦宏(株式会社ユニークアイディ代表取締役/パンゲア・フェロー)

  ※一般のご参加はご案内しておりません。


■■ パンゲア日記(編集後記) ■■━━━━━━━━━━━━━━━━★

●デスクから:山崎麻里子

 パンゲア@渋谷がついにスタートし、それから怒涛のような2週間が過ぎました。本業も超・多忙なボランティアで構成される事務局のメンバーもへとへとになりながら、小・中学校の第1回目レビューを終え、次回に向けて再び準備に奔走しています。

 山積みの課題をひとつずつクリアしていく中で、パンゲアの仲間も増えつつあります。文化も言語も違う領域から集まった人達と言葉を交わすことは、私自身が「つながり」の一部に触れているんだということを強く実感させてくれます。それがこの組織で活動する楽しさのすべてなのかもしれませんね。

●編集長から:小西喜朗

 特集をまとめつつ個人的に連想したのは漢字文化です。パソコンの世界では、アイコンというファイルを表す四角いマークがありますね。このアイコンを自由にアレンジした自分なりの賑やかなデスクトップにお目にかかることがあります。このアイコンというのは、漢字みたいなものではないかと常々思っていました。

 漢字は象形文字から発展したわけですが、数が増えるに従って、どんどんブラッシュアップされて今の形になっている。エジプトでもメソポタミアでも象形文字だった。しかし、粘土板とかパピルス、紙に筆といった道具の場合、シンプルに記号化されていないと、書いたり伝えるための手段がとてもやっかいなわけですね。だから、クールな形にならざるを得ない。どんどん情報量を減らして、抽象化されていく。

 ところがどっこい、ビットリッチになったコンピュータ世界では、もっとカラフルで表現豊かな象形文字、あるいは表意文字を使っても大丈夫なわけですね。それが「絵文字」ではないだろうか?

 マクルーハンは、メディアはメッセージであるとか、マッサージであるかと言いましたけれど、コミュニケーション・ツールが変化するとき、子どもたちの世界でいったい何が起こるのか? これはたいへん興味深いことです。

 世界が共通に会話できるコミュニケーション・ツールで結ばれるという、有史以来かつて存在し得なかったことが実現するとき、私たちは本当に新しい未来を見ることになるのではないでしょうか。
 とってもワクワクしています!!



 ━━━━━■■ ボランティアスタッフ募集のお知らせ ■■━━━━━

 NPO法人パンゲアでは、パンゲア@渋谷におけるファシリテーション、
 パンゲア・コミュニケーターを中心とした基盤技術開発、2005年の世界子
 ども年を目指したグローバルイベントの企画などなど、「つながり」とい
 うパンゲアのコンセプトに関心を持ち、様々なシーンでアイデアやノウハ
 ウを提供してくださるボランティアの方を探しています。

 ◆◆◆ ご興味のある方は、お気軽に事務局までご連絡ください ◆◆◆